悪性胸膜中皮腫? アスベストが原因で起こる症状と治療について

アスベスト博士
素人にはわかりづらいアスベストをやさしく説明してくれる博士。

30秒でわかるまとめ

非常に微細な鉱物繊維であるアスベストが空気中を漂い、人の肺に取り込まれると深刻な健康被害をもたらす。アスベストが原因で起こる病気の1つが悪性胸膜中皮腫で、20年から50年という長い潜伏期間を経て発症する。治療方法としては、摘出手術・化学療法・放射線治療がある。関連疾病を予防するには、アスベストを吸い込まないようにすること。特に建築業や解体業に就いている方は、作業時には対策を徹底して身を守る。
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昔はさまざまな工業用途で使用され、建材として多くの建物にも使われてきたアスベスト(石綿)は、もとは非常に細かい繊維からなります。アスベストが使われていた建物が解体工事などで取り壊されると、そのアスベストの繊維が粉塵状になって空気中に漂います。

そうして人の肺に取り込まれたアスベストは、人体に深刻な健康被害をもたらします。アスベストが原因となって起こる病気にはさまざまなものがありますが、その1つが「中皮腫」で、なかでも「悪性胸膜中皮腫」を引き起こしてしまうケースもあるのです。これはどのような病気なのでしょうか。

悪性胸膜中皮腫とはどんなもの?

今日はアスベストによる健康被害について勉強しましょう。

はい!宜しくお願いします。

助手さんは、アスベストによる健康被害についてどんなことを知っていますか?

肺に腫瘍ができる…というのはなんとなく知っています。

なるほど、では悪性胸膜中皮腫についてはいかがでしょう?アスベストの健康被害ではとくに語られることが多い病気です。

がん、とはまた違うんでしょうか。

では、悪性胸膜中皮腫について説明しましょう。この病気を説明するには、まず「中皮」を説明しなければなりません。肺や心臓、肝臓や胃腸などの内蔵は、薄くて透明な2層の膜で包まれています。肺や心臓を包む膜は肺膜、胃や肝臓を包む膜は腹膜といった具合です。その膜の表面が「中皮」です。

中皮にできるから中皮腫なんですね。

そのとおりです。「中皮腫」とはこの中皮に発生する腫瘍のことで、良性のものと悪性のものがあります。中皮腫の大半は胸膜に起こりますが、その腫瘍が悪性であるケースが「悪性胸膜中皮腫」です。悪性の腫瘍は、1か所に発生したものが大きくなるケースもあれば、ほかの場所にまで腫瘍が広がっていくケースもあるんです。

博士、中皮腫は喫煙でも引き起こされるんでしょうか?

いえ。中皮腫は、肺がんとは異なり喫煙で引き起こされることはなく、米国ではアスベストが唯一の原因といわれています。悪性胸膜中皮腫はがんとしては珍しいものの一種で、ウイルスに感染して発生することもありますが、その原因の7割から8割にはアスベストが関わっているとされています。

なるほど、そうなんですね。良性、悪性とあって悪性となるとがんということですね。

アスベストを吸い込んだことで悪性胸膜中皮腫が起こる場合、その潜伏期間は20年から50年と非常に長くなります。

そんなに長く潜伏しているんですか?!とても長い期間をかけて、忘れたころに発症する傾向があるんですね。

悪性胸膜中皮腫の症状と治療方法について

先ほど助手さんがお話していたとおり、中皮腫には良性と悪性があります。良性の場合はほかの臓器に転移することがなく、目立つ自覚症状が出ないこともありますが、腫瘍が大きくなると咳や胸痛、呼吸困難などが出ることもあります。悪性の中皮腫は、膜に沿って腫瘍が広がり、病状が進行していくとさまざまな症状が現れます。

とてもつらい症状ばかりですね…。

そうですね…。悪性胸膜中皮腫は胸膜に沿って腫瘍が広がっていくため、それによって「胸膜腔」という空間が生じ、そこに胸水がたまります。そうして、咳や胸痛、呼吸困難などの症状を覚えるようになります。加えて、発熱や体重の減少などが現れることもあります。

博士、悪性胸膜中皮腫の治療はできないんですか?

できますよ!悪性胸膜中皮腫の治療方法としては、大きく分けて「摘出手術」「化学療法」「放射線治療」の3種類があります。摘出手術は、どこをどのように切除するかという点でさらに複数の選択肢がありますが、いずれにしても手術という外科療法だけで治癒するのは難しいんです…。

では、化学療法がよく使われる治療法になるんでしょうか。

はい。悪性胸膜中皮腫の多くのケースで候補の筆頭にあがるのは、複数の薬を投与する化学療法です。この治療方法では吐き気や食欲不振などの副作用が出ることがありますが、栄養剤などを併用して副作用を予防します。放射線治療は、胸痛などの痛みを緩和したり、遠隔転移した病巣を制御することを目的として使われることの多い選択肢なんですよ。

アスベスト関連の疾病を予防するには?

悪性胸膜中皮腫には先ほどお話したような治療方法がありますが、完全に治療するのは難しいというのが実状です。特にアスベストが原因の悪性胸膜中皮腫は潜伏期間が長く、病状が進行するまでは目立った自覚症状も出にくいために発見が遅くなり、気づいたときにはかなり進行しているということも少なくありません。

そうなると、手術したとしても転移や再発が生じてしまうこともあるのでは?

そのとおりです。転移や再発も珍しくなく、全ステージを平均した5年生存率は、10%ほどとされています。そこでやはり肝心なのは、こうした病気が発生する前に予防するということでしょう。

この病気を予防する方法っていったいどんなことがあるのでしょうか。アスベストを吸い込まないのはもちろんだとは思いますが…。

まず、アスベストの吸入が原因で起こる病気のリスクが最も高いのは、建築業や解体業などで日常的にアスベストを扱う仕事をしている方たちですね。仕事現場でアスベストに長時間さらされ、アスベストを吸い込めば吸い込むほど、アスベストに関連する病気にかかってしまう危険が高まるんです。その予防方法は、吸い込んでしまうアスベストの粉塵や繊維量を減らすことにほかなりません。

現在は、アスベストに接する産業での粉塵対策も改善されいるとは聞きますが…、実際はどうなんでしょう?

そうですね、改善されていますよ。アスベストを含む建物の解体の手順も、法律で細かく定められていますから、そうしたルールを守り、作業時には保護具を着用するなどして身を守ることが大切なんです。

細かい手順だけれど、きっちり守ることで健康も守れるってことを作業員の皆さんにも知っておいてほしいですね。

はい。また、現在は建築などにアスベストが用いられることはなく、アスベストを扱ううえでの環境改善もなされてきています。アスベストを含む建物を解体したいと考える方たちも、信頼できる施工会社を選べば安心してまかせることができるでしょう。

施工会社を選ぶときは、慎重に比較検討して選びたいですね。安全を選ぶってことですもんね。

そのとおりですね。しかし、いくら予防をしていたとしても、何十年も前にアスベストを扱う仕事に従事していた方たちは、長い潜伏期間を経て発症する懸念もあるんです。年に1回は胸部X線検査を受けて万一の場合も早期発見できるようにしたり、禁煙して肺がんのリスクを低くしたり、肺炎球菌などの予防接種で感染症から身を守るといった選択肢もあります。

定期的に検査を受けるのが大切ですね。

悪性胸膜中皮腫の検査を受けたいと思ったら、まず近くの内科で診察を受け、そこで過去のアスベスト関連勤務のことなども説明して相談してみるといいでしょう。

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