過去の日本で広く普及していたアスベスト(石綿)は、安価な素材でありながら断熱性や耐火性、吸音性といったすぐれた機能性をそなえ、加工もしやすいことから、非常に多くの建材に使われていました。
そんなアスベストも、肺がんや中皮腫といった疾患を引き起こす原因になる健康被害や、大気を汚染する環境被害のような深刻な危険性が知られるようになると、使用が禁止されるに至りました。
しかし、アスベストが使われた建物は現存しています。そうした建物からアスベストを空気中に飛散させることなく、建物を安全に解体・撤去するためには、守るべきさまざまな手順が定められています。
目次
アスベストが使われた建物ではアスベストの除去・解体工事が必要
博士、一般の住宅にアスベストが使われている場合で解体が必要になったときはどうしたらいいんでしょうか?
住宅などの建物にアスベストが使われている場合、その建物の建築に使用された建材の一部にアスベストが含まれていることも考えられますね。その建材が老朽化したり何らかの理由で破損したりすると、建材のなかのアスベストが空気中に飛散することがあります。飛散するとどういう影響があるか知っていますか?
知ってます!アスベストは非常に細い繊維なので、空気中に飛散すると人の目に見つかることなく人の肺に吸い込まれます。人の体内にとりこまれたアスベストは、体内で分解・排出されることなくそのまま蓄積されてしまい、長い潜伏期間を経て肺がんや中皮腫などの甚大な疾患を引き起こす原因になってしまいます。
そのとおりです。アスベストが使われた建物をそのままにしておくということは、アスベストの被害の危険性を存在させ続けるということであり、その建物を使い続ければアスベストの被害を受ける可能性が生じますよね。そのようなことにならないよう、アスベストが使われている建物からアスベスト含有建材を除去したうえで、建物を解体する必要があるというわけです。
アスベストの除去・解体工事の流れ
一言で「アスベストが使われた建物」といっても、アスベストの使われ方や建物の状況はさまざまです。そうした建物を解体する際の手順もケースバイケースで、いろいろな進め方がありますよ。
アスベストが使われた建物のアスベストの除去・解体工事の一般的な流れを教えてください!
解体工事を行うにあたってまず必要なのは、現地調査ですね。建物にアスベストが使われていなくても、解体工事の費用の見積もりをとるための現地調査は必要ですよ。加えて、アスベストが使われた建物であれば、アスベストの含有状況を正確に把握し、そのうえで工数や費用を見積もる必要があります。
アスベストの含有状況は正確に知っておかないと、あとから発見なんてなった時には追加費用がかかってしまいますよね。注意しないと…。
そうですね。建物の所有者(工事の施工主)からみると、解体工事の施工会社に現地調査・見積もりを依頼することは、信頼できる施工会社を探して契約するための重要なプロセスでもあるといえますね。
施工会社選びに失敗したら大変ですね。想像したくないです…。
そうですね。慎重に選んでほしいです。アスベストの除去・解体工事を依頼すると、施工会社は現地調査の結果をもとに、除去・解体工事の施工計画を作成します。工事の前にどのような準備を行うか、工事作業をどの順番で進めていくか、アスベストをどのように廃棄するかといった具合に、必要な手順の1つひとつを詳しく計画していくのです。
なかなか手間がかかりますね。順番を知っておけばご近所にもいいタイミングでご挨拶にも行けそうです。
その後はアスベストを含む建物の解体工事に必要な届け出を行い、工事の具体的な準備に入ります。解体前には、建物内部に残されていた不用品や建物内外の配管・配線を撤去し、工事に必要な足場の組み立てや養生作業を行います。
工事自体はどんな流れなんでしょうか。
工事は建物の解体に先駆けて、アスベストを含む建材を除去します。このときにアスベストが飛散することのないよう、作業は慎重に行われます。アスベストの除去が完了したら建物を本格的に解体し、整地、アスベストの廃棄処理などを行って、工事は完了です。
届け出の対象とは?
工事の流れのなかに、「アスベストを含む建物の解体工事に必要な届け出を行う」という工程がありましたが、この届け出にはどのようなものがあるのでしょうか。
まず届け出について理解するためには、アスベストの危険性について知っておく必要がありますので説明していきましょう。
アスベストの被害はアスベストが空気中に飛び散り、それを人が吸い込んでしまったり空気を汚染してしまったりするところから始まりますよね。アスベストの飛散のしやすさが、アスベストの危険性に比例しているというわけですね。
そのとおりです。アスベストを含む建材を扱う際の危険性は、そのアスベストの飛散のしやすさによって違います。そこで、アスベストの飛散のしやすさによってレベル1から3までの3段階に区分し、それぞれのレベルに応じて必要な手順を法律で定めています。
アスベスト 飛散しやすさレベル1
3段階のレベルのうち、アスベストが最も飛散しやすいのがレベル1でしょうか?
正解です!レベル1には、柱や梁などに吹き付け材として使われていた吹き付けアスベストなどが該当しますよ。また、レベル1のアスベスト含有建材を扱う解体工事については4種類の届け出が必要になります。
アスベスト 飛散しやすさレベル2
次に飛散しやすいのがレベル2ですね!
正解です!レベル2には、煙突や配管に使われた断熱材や保温材、耐火被覆板などがあります。レベル2の場合は3種類の届け出が必要です。
アスベスト 飛散しやすさレベル3
残りは…、屋根に使われた石綿スレートやアスベスト含有成形板などの建材ですね。これは、アスベストが比較的飛散しづらいレベル3に分類されますね!
お見事です!レベル3のアスベスト含有建材を扱う解体工事については、必要な届け出は1種類のみでOKです。
アスベストの除去・解体工事に必要な手続き
アスベスト除去や解体工事に必要な手続きにはどんなものがあるのでしょうか。
では簡単に説明していきましょうか。
1.建設リサイクル法に基づく届け出
建設リサイクル法に基づく届け出は、延床面積が80平方メートル以上の建築物の解体など一定の条件に該当する工事を行う時に必要になります。工事開始の7日前までに、工事の発注者(施主)が都道府県知事に届け出ることとされています。
2.大気汚染防止法に基づく届け出
大気汚染防止法に基づく届け出は、レベル1・レベル2のアスベストの除去工事を行う場合、その工事の発注者(施主)が都道府県知事に届け出を行います。届け出の期限は、作業開始の14日前までです。
3.労働安全衛生法に基づく届け出
労働安全衛生法に基づく届け出は、レベル1のアスベストの除去工事を行う場合に必要です。工事する場所を管轄する労働基準監督署に対して、その工事の施工者(元請業者)が届け出ることとされています。これも、工事開始の14日前までに届け出が必要です。
4.石綿障害予防規則に基づく届け出
石綿障害予防規則に基づく届け出は、レベル1・レベル2のアスベストの除去・封じ込め・囲い込み工事を行う場合に必要です。工事する場所を管轄する労働基準監督署に対して、その工事の施工者(元請業者)が作業開始前までに届け出ます。
どれも期限が短いので提出忘れに注意しないといけませんね。
おわりに
アスベストを含む建物の解体工事は、一歩間違えればアスベストの大量飛散を招き、アスベストの被害を広く及ぼしてしまうことになりかねません。
そうならないよう安全に工事を行うためには、入念に準備をしたうえで慎重に作業を進める必要があるというのがよく理解できました。
工事に伴う事前の届け出も、安全を担保するために定められた重要なプロセスです。こうした手続きをないがしろにすることなく、信頼できる施工会社をパートナーに選び、安全な解体工事を行えるようにしましょう。