非常に細い天然の鉱物線維であるアスベスト(石綿)は、髪の毛の5000分の1ともいわれ、肉眼では見ることができない微細な繊維です。そのアスベストが空気中に飛散し、呼吸などで人間の体に入り込んでしまうと、体内のさまざまなフィルターをやすやすと通過し、肺の奥に沈着してしまいます。
その結果、アスベストは、人体の肺を中心にさまざまな健康被害を引き起こしてしまうことになるのです。万が一被害を受けてしまってもきちんと対応できるよう、そうしたアスベストに関連する疾患と、その健康被害に対する給付金について、確認しておきましょう。
呼吸困難はアスベストが原因かも?
博士、アスベストの健康被害について詳しく聞かせてもらえませんか?
はい。もちろんですよ!アスベストの健康被害については、多くの方にしっておいてほしいので、今日はしっかり聞いてもらって次は助手さんが皆さんに伝えてあげてくださいね。
はい!知らない方にもわかりやすく伝えられるようにがんばります。
アスベストは丈夫で変化しづらく、その性質からかつては建材などの工業用途で多く用いられてきたのは知っていますね。
知っています。利用されてきたのは、3,000種ほどあるといわれていますよね。
そのとおりです。そして、アスベストのその性質が人間の体内で発揮されてしまうと、排出も分解もされにくく、アスベストが肺の組織のなかに長きにわたってとどまってしまうという特徴があるのです。これが徐々に体内に蓄積されていくことになり、蓄積されたアスベストは、長い潜伏期間を経て呼吸障害などを引き起こします。
重大な病気につながることも考えられるんでしょうか。
はい。肺がんや悪性中皮腫、肺繊維症などの重大な疾患を引き起こす要因ともなるんです。そのリスクは、最悪の場合死に至ることもあるほど重いものなんです。
そんなにも重大な健康被害だったんですね…。
そうなんです。そして、呼吸困難など、呼吸に関する不調を感じたら、もしかするとアスベストが原因で起こっている健康被害である可能性も否定できないんです。
アスベスト関連の病気について
博士、もっと疾患について詳しく知りたいです。
では、ここからは、アスベストが引き起こす可能性のあるそうした疾患について、具体的に説明していきましょう。まずは、肺がんについて。気管支や肺胞を覆う上皮に起こる悪性の腫瘍です。肺がんといえば最大の原因として知られているのが喫煙ですが、アスベストによって引き起こされることもあります。肺がんの危険性に関する過去の調査では、非喫煙者の危険性を1とした場合、喫煙者は10倍、アスベスト吸入者は5倍、アスベストを吸入した喫煙者はおよそ50倍という結果もあります。
アスベストはもちろんですけど、喫煙もやめたほうが安心ということがわかりますね。
そうです。そして、アスベストによる肺がんは、アスベストを吸入してから30年から40年ほどの長い潜伏期間を経て発症します。症状としては、咳や痰、血痰などが多くみられますが、自覚症状がないまま胸部X線検査などで発見されるケースもあります。
無自覚で発症しているのは怖いです。定期的に検査を受けることが重要になってきますね。
そうですね。定期的な検査は必須です。次に、中皮腫について説明しましょう。これも肺がんの腫瘍で、8割から9割は肺を取り囲む胸膜に起こります。肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜や、心臓、精巣などに発生することもあります。中皮腫の場合、喫煙との関連はみられないのが肺がんとの違いです。アスベストが引き起こす中皮腫の潜伏期間は40年から50年と極めて長く、10年未満の発症例はありません。症状は、胸膜に起こる中皮腫では、胸痛や息切れなどの症状が多く、発熱や咳、全身の倦怠感、体重減少などもみられます。
潜伏期間がかなり長いですね。それに、肺だけじゃない場所にも発生するなんて…。
では次に石綿肺について説明しましょう。アスベストを大量に吸入することで肺が線維化してしまい、酸素と炭素ガスの交換が行われづらくなるために呼吸困難が生じる病気です。肺の線維化を引き起こす肺線維症にはさまざまな原因がありますが、そのなかでアスベストに起因するものは特に石綿肺と呼ばれます。
石綿ってアスベストのことですよね?
そうです、なので石綿肺といわれているんです。石綿肺は、アスベストを吸入してから10年以上経過すると症状が出るようになります。初期症状としては咳や痰、息切れが多く、徐々に進行すると日常生活に支障を来すほどの呼吸機能の低下が起こります。加えて、肺がんや中皮腫、気管支炎などを合併することもあります。
石綿肺は、初期症状でもつらい症状がでるんですね。
次は、びまん性胸膜肥厚について説明しましょう。びまん性胸膜肥厚は、肺を覆う膜の慢性線維性胸膜炎の状態を指し、アスベスト以外のさまざまな原因で生じることもあります。高濃度のアスベスト累積により潜伏期間30年ほどで発症するとされます。アスベストに関連するびまん性胸膜肥厚の場合、石綿肺に合併しておこったり、良性石綿胸水の後遺症として発生するが多いといわれています。症状としては、呼吸困難や反復性の胸痛・呼吸器感染などがあります。
アスベストの健康被害は、どの疾患も呼吸器系の症状がでるんですね。
次は良性石綿胸水です。アスベストの吸入によって、胸腔内に体液が貯留する「胸水」が生じます。潜伏期間は平均40年ほどで、ほかのアスベスト関連疾患と同様に長期の傾向があるのが特徴です。自覚症状がある場合は呼吸困難や胸痛などがありますが、自覚症状がないまま胸部X線検査で発見されることもあるんです。胸水が消えれば治りますが、胸水がひかない場合は呼吸機能に障害が残ることもあり得ます。
どれも潜伏期間が長いので、気付くのが遅くならないように意識しておかないといけませんね。
救済給付金について
アスベスト被害で疾患にかかってしまった場合、病院に行くのはもちろんなんですが、他にできることってないんでしょうか?
ありますよ。3種類の救済給付金から、いずれかのものを受けられる可能性があるのを知っておいてほしいです。
給付金が受けられるんですか?
ただし、原因がアスベストであることや、著しい呼吸機能障害を伴う場合などの条件があります。また、救済給付では良性石綿胸水は対象とはならないといった条件がありますので、注意しないといけません。
労災保険
労働保険に加入している労働者が、アスベストを扱う仕事によってアスベストの健康被害を受けた場合、労災の適用を受けて保険の給付を受けられる可能性があります。
労働保険に加入していないといけないんですね。
特別遺族給付金
特別遺族給付金は、労災対象者がアスベストの健康被害で亡くなってしまった場合、遺族の方が特別遺族給付金を受けることができます。
最悪の事態は考えたくはないですが、知っておくべき給付金ですね。
救済給付
労災保険、特別遺族給付金に該当しない場合、救済給付という制度で給付を受けられることがあります。
治療するにも医療費がたくさんかかることも考えられますし、こうした給付金が受け取れるのは少し安心にもつながりますよね。
そうですね。アスベストは、呼吸器官を経て体内に入り込むことで非常に甚大な健康被害を引き起こします。それらの病気は、最悪の場合命を奪うほど深刻なものです。
規制前は機能性が高いことを理由に多用されていましたし、案外身近なところにも使われていたこともあったりで、自分とは無関係とは言い切れないなと思いました。
中古のお家をリフォームしたり、昔ながらの屋根を取り壊して新しくしたりすることは身近にあることですから、普段から注意しておくのは悪いことではありません。ですが、不要な心配はしないことも大切ですよ。アスベストの危険性とその関連疾患を正しく理解しておくこと、万一の場合に受けられる救済給付金があることを知っておくことで、リスクに対して適切に備えることができるでしょう。